Web Pain    技術資料No.562サンプル
Japan Institute of Baking
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新規製パン用アミラーゼが食パンおよび焼き調理パンの製パン性に及ぼす影響
 
社団法人日本パン技術研究所 伊賀大八 馬場一樹 井上陽平 井上好文
アマノエンザイム株式会社 佐藤公彦 森 茂治
  1、 目的
   新規製パン用アミラーゼSoftmax S(アマノエンザイム)がスクラッチ製法による食パンおよび冷凍生地法による焼き調理パンのソフトネスに及ぼす影響について検討した。
   
  2、 評価試料
   以下の市販製パン改良用酵素および改良剤*を用いた。
   (市販製パン改良用酵素)
   ビオザイムF10SD(アマノエンザイム)
   (αアミラーゼコントロール区。以下ビオザイムとする)
   Softmax S(アマノエンザイム)
   Novamyl 10000BG(novoenzymes Japan)
   Max Life E5(Danisco Culter Japan)
   乳化剤含有市販改良剤 *改良剤の組成表は別表に示した
  3、方法
3-1、初期スクリーニング
   初期スクリーニングとして各試料を対象にスクラッチノータイム製パン法にてパン体積およびホイロ所要時間を指標として製パン性評価を行った。試料添加量はすべてベーカーズ%をベースに算出した。酵素については数十ppmから数百ppmレベル、市販改良剤については1%を最大添加量とした。配合組成および工程は、表1に示した日本パン技術研究所試験法を一部改変したものによった。製パン試験は、検体数が多いため何日間かにまたがった試験が必要なため、気象条件などの変動要因の影響を考慮し、それぞれの試験に毎回同じ条件の添加区(controlとしてアスコルビン酸50ppmのみを添加)を加えて行い、それぞれのcontrol区のパン体積および所要ホイロ時間との相対比較による評価を行った。酵素の評価試験にはcontrol区と同量のアスコルビン酸を併用したが、市販改良剤にはあらかじめアスコルビン酸が配合されているため、アスコルビン酸は併用しなかった。いずれの試験区においても、加水量の調整は行わなかった。この評価結果をふまえ、後の製パン評価に用いる酵素あるいは改良剤添加量を選定した。
   
  3-2、試験区および製パン方法
   初期スクリーニングで選定された酵素の各添加濃度についてスクラッチノータイム法による食パンおよび小麦粉液種冷凍生地法による焼き調理パンの製パン評価を行った。それぞれの試験区と各製剤の添加濃度は以下に、また製パン法は表2および表3に示した。本実験のすべての製パン試験には、下記のパン製造試験設備を用いた。なお、本報告のすべての試験に使用した小麦粉は、あらかじめ含まれているアミラーゼ活性の違いによる種々の影響やデータ変動を防止するため、すべて同一工場で生産された同一ロットの強力粉(日清製粉カメリヤ)を用いており、また長期にわたる評価試験に安定して使用するため、すべて冷凍保管したものを使用した。
   
  (試験区と添加濃度)
 
スクラッチノータイム法食パン  
・ビオザイム(コントロール) 5ppm
・ Softmax S 100ppm / 200ppm
・ Novamyl 10000BG 100ppm / 200ppm
・ Max Life E5 100ppm / 200ppm
すべての試験区にアスコルビン酸40ppmを添加した。  
小麦粉液種冷凍生地法焼き調理パン  
   
・ビオザイム(コントロール) 5ppm
・ Softmax S 100ppm / 200ppm
・ Novamyl 10000BG 100ppm
・ Max Life E5 100ppm
・ 乳化剤含有市販改良剤 1%
改良剤添加区以外のすべての試験区にアスコルビン酸100ppmを添加した。  
   
  (製パン生地調製および焼成試験設備)
  ミキサー:カントー縦型ミキサー30コートタイプ、アルミフック
モルダー:カマタ製作所製一段モルダーKY301型(ドッグロール成形)
     フジサワ製FM31Z型(ワンローフ成形、プルマン型詰め成形)
ホイロ :ニッポー電気製温湿度調節器 T-1629型
オーブン:フジサワ製プリンス?型3段デッキオーブン
   
  3-3、小麦粉液種冷凍生地法焼き調理パン生地の凍結保管
   調製した生地の凍結は、以下の定温保管および虐待保管の条件で2週間保管した。定温保管はTOSHIBA製CR241Gチェスト型フリーザーを、虐待保管は日本製粉-三洋電機製まなでし-U47型ドウコンディショナーをそれぞれ用いた。虐待保管ではU-47型ドウコンディショナーにより温度変化を与えた。ドウコンディショナーの庫内温度変化は、-5℃から-20℃への冷却時はおよそ40分、-20℃から-5℃への昇温時はおよそ30分で、それぞれの目的温度に達した。保管した生地は下記条件2の温度変化サイクルの時間内で、じゅうぶんな凍結状態、または解凍状態を繰り返した。下記の解凍-再凍結の繰り返される虐待保管条件は、一般に-20℃の一定温度で冷凍生地を2か月保管した場合の凍結障害を生地に与えることが出来るとされている。
   
  条件1(定温保管):-20℃一定温度のストックフリーザにて保管。
条件2(虐待保管):-20℃18時間(凍結)、+5℃6時間(解凍)
           の解凍-再凍結を期間内に8回行った。
   
  3-4、ガス発生力の測定
   小麦粉液種冷凍生地法による焼き調理パンの生地のうち、凍結前、定温保管後、および虐待保管後の生地のガス発生量測定をATTO製 Fermograph により行った。また小麦粉生地発酵に酵素の与える基本的影響を把握する目的で、表4に示す配合工程により調製した生地についても測定した。すべての測定に用いた生地重量は30±0.05gとした。焼き調理パン生地のガス発生測定の総時間はすべて240分間とし、基本的影響を把握するための生地については600分間とした。ガス発生測定は10分間隔で行い、単位時間ごとの推移からガス発生パターン(微分値)を、また単位時間ごとのガス発生量の総和から総ガス発生量(積分値)を算出した。発酵槽の水温はすべての測定で30±0.01℃とした。ATTO製 Fermograph 装置およびデータ処理ソフトウエアの概要は以下に示した。
   
  恒温装置 :タイテック製サーモミンダーSM-05型 ( 変動±0.02℃)
ファーモグラフ本体:ATTO製AF-1101-10W型
ソフトウエア:専用ソフトウエア Fermograph ver. 1.4
       (数値データをMicrosoft Excel形式にデータ変換)
データ処理:富士通FMV-BIBLO 6333(Windows 98)
   
  3-5、パン体積の比較
   食パン、焼き調理パンともワンローフ型に成形し焼成したパンの体積を、パーカーコーポレーション製パン1斤型容積測定装置により菜種置換法にて測定した。
   
  3-6、パンの表皮、外観、および内相の観察
   焼き調理パンおよび食パンについて、焼成後にプラスチック番重に載せたまま室温で60分間(ドッグロール成形)または90分間(プルマン型食パン)放冷し、外観全体の表皮の状態を観察した。その後、細密な表皮、パン底およびドッグパン中央断面の内相画像をフラッドベッドスキャナーからパソコンに取り込んだ。パソコンに画像を取り込んだのは焼き調理パン焼成品のみとした。ドッグロール成形のパンで表皮およびパン底の画像取り込みに用いたものは、試験区毎に代表的なものを3ヶ選んで用いた。パン内相の取り込みに用いたプルマン型焼き調理パンは、1.5斤棒を20mm厚にスライスしたものの中から代表的な2枚の面を選んで用いた。画像を取り込んだ試験区とパンの種類は下記のとおりである。内相画像取り込みと画像処理に用いた装置およびソフトウエアは以下のものを用いた。
   
  (画像を取り込んだ試験区とパンの種類)
  ・ パンの種類は小麦粉液種冷凍生地法による焼き調理パンのみである
  成形冷凍ドッグロール・・冷凍前(非冷凍)、定温保管、虐待保管
              それぞれ中央断面内相と表皮およびパン底
  プルマン型成形・・・・・定温保管、虐待保管
              それぞれ20mm厚スライス断面のみ
  (装置およびソフトウエア)
  スキャナー   :Canon CanoScan FB1210U
         取り込み解像度24bitカラー、等倍率、300dpi
画像処理パソコン:Apple Power Macintosh G4 1GB RAM(Mac OS X)
ソフトウエア  :画像処理ソフトウエア、Adobe Photoshop 7.0
プリンタ出力  :エプソンPM-3500C、フォトプリント紙
カラー管理   :ColorSync出力補正をApple Studio Displayモニタと同調
   
  3-7、パンクラムの硬さの測定
   スクラッチノータイム法による食パンおよび小麦粉液種冷凍生地法による焼き調理パンのプルマン型成形の焼成品について山電製レオナーを用いて以下に示す条件で圧縮試験を行い、測定した圧縮荷重の平均値をパンクラムの硬さとした。測定に用いたパンはすべてプルマン型成形のものを用いた。試験に用いたすべてのパンは、焼成直後から90分間、25℃に温調された室内で放冷した後にポリエチレン袋で密封し、25℃に保たれたドウコンディショナー庫内に保管した。保管日数は焼成後1日、3日および5日間とした。所要日数が経過した後、パンを20mm厚にスライスし、パン中央部のスライス8枚を硬さ測定の試料とした。測定直前にスライスの中心下部を42mm四方の正方形にカットし、以下に示す条件で圧縮試験を行い、測定した圧縮荷重の平均値および標準偏差(検体数n=8)をクラムの硬さデータとした。なおパン内相には生地の密度ムラができる場合があり、成形時のモルダー幅の調製などによって密度ムラの頻度は低下するが、完全に回避することは難しい。このようなスライスの測定数値は標準的な数値から大きくかけ離れ、また圧縮過程で描かれるカーブも大きく変化する。クラムの硬さデータを求める際には、このような数値およびカーブを示したものをエラーとして除外し、(検体数n=6またはn=7として)平均値と標準偏差を算出した。
   
  (圧縮試験条件)
   プランジャー:テフロン製 32mm×32mm
 圧縮速度  :10mm/分
 圧縮率   :スライス厚の75%(25%の薄さになるまで圧縮)
 圧縮回数  :1回圧縮のみ、繰り返し圧縮なし
 測定時の室温:25℃に空調(焼成品保管温度に同じ)
 データ   :圧縮時の最大荷重をデータとした
   
  4、結  果
  4-1、初期スクリーニング
   初期スクリーニング試験のパン体積測定結果(棒グラフ)および所要ホイロ時間(線グラフ)をグラフ1グラフ2グラフ3グラフ4グラフ5に示した。すべての試験において同一条件で製造したcontrol区の体積(グラフ内.左の棒)は、やや変動しているものの1640mlから1680mlの範囲(平均1653.89、標準偏差15.96)に収まっており、スクリーニング試験系の高い再現性が示された。
 グラフに示された試験区の中で、試料名と添加濃度が記載されているにもかかわらずデータがプロットされていないものは、酵素の添加効果が過剰となり、製パンに支障をきたすレベルであったことから、ミキシング直後あるいは生地分割直後の段階で製造を中止したものである。改良剤の添加量は、あらかじめ製造メーカー推奨レベルの範囲内を4実験区に分けて行い、推奨レベル以上の添加は行わなかった。これらスクリーニング試験の結果から、下記に示す各酵素に適すると思われる添加量レベルが得られた。これらから後の製パン試験における添加量濃度を決定した。
 
ビオザイム 5〜10ppm
Softmax S 100〜200ppm
Novamyl 10000BG 100〜200ppm
Max Life E5 100〜200ppm
   
  4-2、パン製造工程中の加工適性
   製パン試験を行った全ての試験区において、パン製造中の加工適性に問題は認められず、いずれの試験区の生地も、ミキシングから発酵、焼成に至るさまざまな状況において扱いやすい好ましい物性を有していた。
   
  4-3、ワンローフ成形パンの体積と外観
   ワンローフ型に成形し焼成したパンの体積(2本の平均値)をグラフ6に示した。両製法とも試験区により体積に違いが認められたが、全体におおむね近い体積が得られた。酵素とアスコルビン酸を併用した区の体積は改良剤使用区を上回ることはなかったが、体積が極端に小さいものはなく、パン製品としてじゅうぶんな膨張を達成していた。酵素の種類毎の変化では、食パンでのMax Life E5 200ppm添加区の体積がやや大きく、焼き色もやや濃い傾向が認められた。また同じ酵素を使用して添加量が異なる(100、200ppm)場合は、いずれもスクリーニング試験結果と同様に添加量が多い区のほうが体積は大きかったが、焼き色については添加量による大きな違いは認められなかった。
   
  4-4、ガス発生
   焼き調理パンの生地のうち、凍結前、定温保管後、および虐待保管後の生地の総ガス発生量測定結果をグラフ7に示した。添加酵素の種類や添加量によるガス発生量のちがいは認められず、焼き調理生地の発酵力にあたえる酵素の影響はないことがわかった。またここには示さないが、ファーモグラムから読みとったガス発生カーブの単位時間あたりのピーク値にも差が認められなかった。
 グラフでは、冷凍前のガス発生量のほうが、冷凍(定温、虐待とも)後のガス発生量を上回っているが、これはガス発生力測定時の生地の初発温度の違いが発酵の立ち上がりのガス量に影響を与えたため(冷凍前の生地温度は25から26℃に対し、冷凍した生地はー20℃)であり、酵母のガス発生力に対する影響は、冷凍条件や添加物質の違いなど、すべての試験区に認められないと考えられた。
 一方、基本的影響を比較した無糖生地と糖含量5%生地でのガス発生パターンには違いが認められた。両者のガス発生パターンをグラフ8およびグラフ9に示した。無糖生地発酵において酵素添加区は、酵素無添加区に対しα1-4結合を切断するアミラーゼ活性の強さに比例してガス発生力が落ち込む時間が遅延していく。これはアミラーゼによって損傷澱粉から切り出されてくる酵母資化性糖であるマルトース生成量がガス発生の律速となっているためである。また、α1-4結合の切断能に加えα1-6結合を切断するアミラーゼが共存する場合は、基質となる損傷澱粉に対してより効率よく作用することができるため、ガス発生の落ち込みが極度に遅延するか、または酵母が自らの生成したアルコール等によって発酵阻害を受けるようになるまで落ち込むことがない。つまり、落ち込みまでの遅延時間が長いほど、相対的なアミラーゼ作用が強いことを示し、また落ち込みが認められない場合はα1-6結合の切断能が共存することを示している。グラフから読みとった落ち込み遅延時間では、短い順にnovamyl100ppm、novamyl200ppm、乳化剤含有市販改良剤1%、F10SD5ppm、MaxLife100ppm、Max Life E5 200ppmとなった。これに対しSoftmax100ppmと200ppm添加区には落ち込みが認められず、α1-6結合の切断活性が共存することが示された。
 糖含量5%生地では、あらかじめ5%のスクロースが配合され、生地中ではグルコースとフルクトースとなって存在しており、これらが十分な酵母資化性糖として供給されている。このためにアミラーゼ作用の強弱によりマルトースの供給量に差が出たとしても、無糖生地に見られるような明らかなガス発生の落ち込みは観察されず、アミラーゼ作用の強いもの、あるいはα1-4およびα1-6結合切断活性共存するものが、資化性糖が不足してくる発酵終盤においてガス発生低下がわずかに遅れる傾向を示す。糖含量5%生地では無糖生地と同じように発酵終盤におけるSoftmax区のガス発生の低下が遅れる傾向が観察され、ここでもα1-6結合の切断活性の共存が示された。
   
  4-5、小麦粉液種冷凍生地法による焼き調理パンの内相と外観
   内相および外観をフラッドベッドスキャナーで取り込んだパンの写真を出力した。写真ファイル名に記載された数字、アルファベット記号およびカタカナは試験区の内容を示している。それらの示す条件を以下に記した。フォトファイルはこちらへ・・・
   ドッグ       成形冷凍ドッグロールパンの外観および内相
 プルマン      生地玉冷凍プルマン型詰めパンの内相
 アルファベットS  -20℃定温保管
 アルファベットTF -5℃ ←→ -20℃解凍再凍結虐待保管
 末尾の番号1    ビオザイムF10SD     5ppm添加区
 末尾の番号2    Softmax S        100ppm添加区
 末尾の番号3    Softmax S        200ppm添加区
 末尾の番号4    Novamy10000BG      100ppm添加区
 末尾の番号5    Max Life E5        100ppm添加区
 末尾の番号6    乳化剤含有市販改良剤      1%添加区
   ドッグロールパンでは酵素添加区のちがいによる外観上の差はわずかで、ビオザイムF10SD添加区のクラストとパン底の色がややうすい程度の違いであった。内相構造についても同様であった。外観上、大きく異なったのは、解凍再凍結による製品(写真ラベルにTFとある区)の表皮とパン底がひどく冷凍障害を受けて劣化している点で、とくにパン底に現れたなし肌現象はいずれの添加区においても差がなく、すべての区で顕著な劣化現象が観察された。スクラッチと-20℃定温保管では表皮でも、またパン底でさえも、まったく劣化したようすは観察されなかった。内相のクラスト厚については全ての条件で有意な差は観察されなかった。
 プルマン型詰めパンクラムの内相では、ドッグロールと類似した傾向が見られ、酵素添加区毎のちがいは小さかった。凍結保管条件のちがいでは、-20℃定温保管の条件に比べ、解凍再凍結による製品の内相はやや荒れる傾向が観察された。またクラスト部分では、凍結条件による違いは小さかったが、酵素添加区のなかでMax Life E5添加区にのみ、クラストがやや厚くなる傾向が認められた。この傾向は凍結条件が違っていてもMax Life E5添加区のすべてに認められる傾向であった。これらクラストが厚くなった部分の食感は他の区に比べて引きが強い傾向であった。
   
  4-6、パンクラムの硬さ
   表5表6表7表8およびグラフ10グラフ11にクラム硬さ経時変化の測定結果を示した。食パンではコントロール区の硬さが時間経過に伴って顕著に増しているのに対し、他の酵素添加区であるnovamyl区、Softmax S区、Max Life E5区すべてにおいて、時間が経過してもクラムのソフトネスが維持されることが示されている。これらの中では、標準偏差レベルが重複する部分も認められるが、Max Life E5区が最も柔らかく、次いでnovamyl区が柔らかい傾向を示した。Softmax S区は平均値だけをみた推移では、わずかながら前2種類の酵素よりも柔らかさが維持されない傾向であったが、標準偏差範囲は重複しており、おおむね類似した効果を示すことがわかった。焼き調理パンも食パン同様の傾向で、時間経過に伴うコントロール区の硬さ増加が目立ち、これに対して食パンでも効果の認められた酵素群にソフトネス維持効果があることがわかった。焼き調理パンでは、グリセリン脂肪酸エステルを20%含有する改良剤1べーカース%区(乳化剤含有市販改良剤:グリセリン脂肪酸エステルとして0.2ベーカーズ%)も測定されたが、酵素群よりもソフトネスは劣っていた。またグリセリン脂肪酸エステルが含有された区は、クラム圧縮試験後にクラムの圧縮された部分に圧縮プランジャーの形状が残り、つぶれたまま回復しなかった。これに対しコントロール区および酵素群の区では圧縮後のクラムがふたたびもとの厚さ近くまで形状が回復し、ソフトネスと共に適度な弾力性も持ち合わせていることもわかった。この結果は食味試験でも確認され、市販改良剤区(グリセリン脂肪酸エステル含有)ではクラムを噛み込んでいくと口腔中でパンが団子状につぶれて固まって行くのに対し、コントロール区と酵素群の区ではそのような傾向が認められず、やわらかい食感でありながら自然な口溶け感が残り後味が良好であった。
   
  5、結果のまとめと考察
   今回の試験でスクラッチ製パンにおいても、また冷凍生地製パンにおいても、Softmaxがnovamyl 10000BGおよびMax Life E5と同等レベルのソフトネス維持効果(グラフ10グラフ11)を持ち、また酵母のガス発生やパン体積(グラフ6)、および製造工程中の加工性など種々の製パン性能においても同等の機能性を有することが確認された。またこれら酵素群とアスコルビン酸を併用した試験区はいずれも、グリセリン脂肪酸エステルを含有する市販改良剤と比較しても遜色のない製パン性を持ちながら有意に高いソフトネス維持能力を示しており、市販改良剤以上の老化防止効果を持つことも確認された。また市販改良剤区のクラムの食感は、グリセリン脂肪酸エステルに起因すると考えられるグチャつき感が残ったが、酵素群を使用した区では、やわらかい食感でありながら自然な口溶け感が残った。これは冷凍生地製法によるパン類や特に大型のソフト食パンなど、乳化剤を多用したパン類の問題点とされる食感(とくに咀嚼中および後味を含めた複合的な食感)の改善に大きく寄与する可能性を示唆していると考えられる。
 近年の消費者の食への安全志向は、乳化剤やイーストフードなどの添加物表示を忌み嫌う傾向があり、メジャーCVSチェーンや量販店などの流通業界では、これら添加物の表示のない(使用しない)製品を多く扱うようになっている。今回得られた知見から、これら酵素群の応用による乳化剤の代替え利用が可能であることが示され、今後は乳化剤を使用しない(表示のない)、あるいは乳化剤使用量をデメリットの発現しないレベルに抑えた、より良好な食感を持つパン類が市場に増えることが期待される。また食への安全志向には遺伝子組み換え食品そのもの、または組み換え菌体から抽出した成分などへの極度な嫌悪意識がある。この傾向は米国を除く世界的な流れであり、とくに日本やEU諸国においてはより顕著である。今回使用した酵素のうちnovamyl10000BGは組み換え技術を利用した製品であり、この点を考慮すると組み換え菌体を経ずに得られるSoftmaxおよびMax Life E5は非常に有用性が高いと言える。製パン試験のなかでMax LifeE5には、ややクラストカラーが濃くなる傾向が認められ、また一部の試験区にクラストの厚膜化にともなう食感の引きの強さが問題点として観察されている。Softmaxにはこれらのデメリットが無く、ほぼ同等レベルのソフトネス維持機能があることから、他の酵素よりもパンクラムソフナーとしての応用利用の検討を進めていく価値が高いものと考えられる。
 また今回の試験のなかでSoftmaxは、α1-6結合に対する分解活性を生地中で発揮することが示されている。これは他の酵素群にはない性質であり、無糖生地発酵の後半から終盤にかけて、他のものと異なる発酵曲線(グラフ8グラフ9)を描いている。米国や、特に日本においては、ベーカリーマーケット製品群の製法の主流となっているのは、あらかじめ小麦粉の一部と酵母と水を混合した“種生地”あるいは“中種”と呼ばれる組成物を本製造に用いる製法で、一般に中種法と呼ばれるものである。これは原料成分の水和が進行することに加え発酵によるグルテンの軟化が進み、非常にキメの細かい膜の薄いソフトなパンが出来ることを特徴としている。今回の試験に供した酵素の中で唯一Softmaxのもつα1-6結合に対する分解活性は、α1-4だけと考えられる他の酵素よりも中種生地の発酵促進に有効であることが示されている(グラフ8)ことから、より中種製法らしい、より熟成の進んだキメの細かいソフトな気泡構造をもつパンの製造に役立つ可能性が考えられる。一般に改良剤メーカーなどで中種製法用の改良剤組成を検討する際は、安定した生地物性が得られることに加え、同時に中種製法によるパンらしいキメの細かく膜の薄いソフトなパンが得られることを念頭に開発が行われる。同じ中種法によるパンを作る場合でも、より中種法らしい特徴の顕著な製品を得るには、中種の発酵状態をより進めることによってより熟成が深められたパンが得られることが知られており、改良剤メーカーではより強いαアミラーゼ活性を与え、熟成を進めようとする場合が多い。また、αアミラーゼに併用するかたちでグルコアミラーゼも併用される場合もある。しかしながら、強いαアミラーゼ活性は今回の一部の試験区に観察された焼き色が濃くクラストが厚く“みみ”の部分が引きの強い、歯切れの悪い食感のパンが出来やすいデメリットを生み、またグルコアミラーゼの併用は、ただでもαアミラーゼの多用で色づきが濃くなる傾向にさらに拍車をかけ、必要以上に濃いクラストカラーと、また必要以上の甘味度の上昇が起きるリスクをはらんでいる。今回の試験で得られたSoftmax区のパンの性質では、焼き色の過度な濃色化やクラストの厚膜化が観察されなかったことから、Softmaxの利用により前述のデメリットを回避しつつ、かつ熟成の進んだソフトな、しかもソフトネスが長い時間にわたって維持される中種法食パンが得られる可能性が考えられた。
 今回の試験では、スクラッチ食パンおよび冷凍生地焼き調理パンという限られたパンの種類だけの検討にとどまっているがSoftmaxの持つであろう様々な可能性が示唆された。今後のSoftmaxの様々な製パン利用への検討、あるいは改良剤組成中のキー成分としての複合利用への検討を大いに期待したい。
   
  謝辞:本実験に際し各種原材料の提供を快くお引き受けいただきました原料メーカーご担当者のみなさまに感謝致します。なかでも長期の実験にもかかわらず、安定した実験データが得られるよう毎週継続して最新ロットの生イーストをご送付下さいました、オリエンタル酵母工業(株)食品研究所 安田隆弘 様には、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
   
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